プリウスデザインとアーゴノミックデザイン

トヨタ自動車(株)デザイン部 澤 正憲

T.はじめに(商品の概要)
プリウスは、“ハーモニアス ビークル”をテーマに、CO2の削減、省資源などの地球環境に配慮しつ つ、クルマの楽しさという本来の魅力を追求し、クルマと人、クルマと社会、そしてクルマと地球と の調和をめざして開発されたイノベーティブなセダンである。このクルマは、パワートレインの革命 とも言うべき「トヨタ ハイブリッドシステム(THS)」を塔載して、画期的な燃費の向上とクリー ンな排気とともに、レスポンスの良いスムーズな加速による楽しい走りを提供している。ただし、プ リウスは、ハイブリッドシステムを搭載するだけに計画されたのではなく、同時に新世代パッケージ、 及び先進的デザインによる斬新な内外スタイルや快適な室内空間、優れた乗降性、アクティブ・パッ シブの両面からも高い安全性を確保し、21世紀をリードする乗用車のあるべき姿を提案したもので ある。
ここでは、プリウスのデザイン開発におけるアーゴノミックデザインとの取り組みを紹介したい。

U.アーゴノミックデザインから見たプリウスの特徴
プリウスは、アーゴノミックデザインから見て、以下の「新世代パッケージ」、及び「遠視点メータ ー」に代表される二つの特徴があげられる。

(1)新世代パッケージ
プリウスのパッケージング基本ストーリーは、「Inside Optimum,Outside Minimum」のコンセプ トが示す通り、道路占有面積を極力小さくした外形寸法に、大人4人がゆったり乗れる「次世代3BOX セダン」として計画された。すなわち、乗車姿勢・乗降性・室内スペース・視認性等などの要求性能 を、幅広い体格の方すべてに満足頂けるように、高い次元で両立させた人間中心のパッケージを目指 したものである。その実現にあたり、乗り降りし易い「高めのシート位置」と「アップライトな運転 姿勢」を採用することになる。

@ 高めのシート位置
乗車時には、高い身長者の腰の上下移動量が少なく、降車時には、低い身長者の足付き性が良いシー ト位置としてグランドライン〜ヒップポイント位置を、一般的な従来車よりも約100o高い「57 5o」に設定した。同時に、乗降時の頭部の動きを邪魔しないルーフサイドレール位置、及びふくら はぎと干渉しないロッカー位置の設定により、自然に乗り降りが出来るように諸寸法が決定された。

写真1

A アップライトな運転姿勢
高めのシート位置に呼応して、ドライバーの腰への負担低減、及び足元・視界等の開放感の確保のた めに「アップライトな運転姿勢」を設定した。これは、従来車のドライバーのトルソー角度が「約2 5度」に対して「21度」とし、合わせてハンドルやペダル類の適正配置により具現化させている。

この「高目のシート位置」と「アップライトな運転姿勢」により、従来にない視界(特に前方)を確 保する事が出来、低身長者を犠牲にする事なしに安心で取り回し性の良い車両となった。
これらの他に、特に前席のヘッドルームに前後左右・直上方向に余裕を持たせ、開放感のある室内ス ペースを提供する事が出来た。これは、当社のミディアムクラスセダン(コロナ)に相当する室内寸 法である。

(2) 遠視点メーター
遠視点メーターとは、当社で以前から研究されていた「ドライバーへの情報表示レイアウトの適正化」 の研究成果の一つで、メーターを車両センターの前方に配置することにより、視認性を向上させなが らも、煩わしさを排除したものである。車両センター部にメーター類のあるクルマは、以前から散見 されたが、これらは生産上、或いは単なる意匠上のニーズによるものが多く、真に「視認性向上」を 目指して計画されたとは言い難い。視認性を向上させるためには、配置上それなりの寸法条件が必要 であり、これを達成するためには、根本的なパッケージの見直しと共に行われなければならない。 この遠視点メーターの利点として、具体的に以下の点があげられる。

写真2

・ 運転中の視線上下移動が少ない
・ 遠くにあるため、焦点合わせが容易

この結果、情報の読み取り時間は社内データによると、50歳以上で約24%,50歳未満で約17% の向上が見られた。

V.アーゴノミックデザインとデザイン(スタイル)上の問題点
いかにアーゴノミック的に優れていても、車両コンセプトに合致し、お客様に「かっこいい」と思っ て頂かないと商品として成立しない。プリウスにおける「新世代パッケージ」と「遠視点メーター」 は、我々デザイナーに解決すべき課題として、以下の項目を投げかけた。

@ 新世代パッケージと外形デザイン
前述のコンセプトの如く、極力小さくした外形に大人4人がゆったり乗れる室内を確保するために、 外形寸法は、L4275o,W1695o,H1490oと決定された。これは、当社の代表的なコ ンパクトクラス(カローラ)の寸法(L4315o,W1690o,H1385o)と比較して頂く と、特に全高の高さが際立っていることに気づかれるであろう。また同時に正背面では、ルーフサイ ドレールが車両外側へ比較的出ている、いわゆる「背高・タマゴ型」のパッケージであり、この中で 「セダン=3BOX」を構成するには、従来の概念で言う「低く・長く=かっこいい」とは全く異なる 寸法諸元となっている。

A 遠視点メーターと室内デザイン
ドライバー正面にメーターが無く、且つインストルメントパネル上面が平らで広い構成は、外形デザ インと同様に従来とは全く異なる基本立体であり、加えてマルチディスプレーやグリップタイプのA /Tシフトレバーなどの新機構の採用など、その操作性・視認性の確保とも両立させると言う複雑な 構成となった。

W.プリウスデザインの工夫点
上記の如く、内外デザインに直接かかわる難しい寸法要件などを、「デザインチャレンジ目標」と考 え、我々の夢をカタチにすべく、「デザインのブレークスルー」を求めて開発を行った。

@ 外形デザイン
数多くのアイデア展開の結果、「タマゴ型(楕円)の前後にテンションを懸けて行き、3BOXに成る か成らないかの接点」の緊張感の中に、基本パッケージを活かしつつも、従来に無い斬新さと未来感 を醸し出す造形美を見つけ出すことが出来た。そのモノフォルム的3BOXを成立させ、且つ後方視界 を確保するため、Cピラーの裾野を伸ばすと同時にトランク上面を凹ます工夫をしたり、比較的短い サイドシルエットに伸びやかさ・動くを与える「彫刻的なレリーフライン」とあいまって、従来の概 念では造形的に不利な立体に、取り回しが良く、且つ空力特性にも優れた独自のスタイルを施すこと に成功した。

写真3

A 室内デザイン
「遠視点メーター」「マルチディスプレー」等の新しい機能を、理想的に配置することと未来感を融 合させることを中心に、外形デザイン同様に数多くのアイデア展開を実施した結果、「シャープな面 質とソフトな面質」の大胆なデザインラインを施した基本フォルムに、モジュール化されたヒーター コントロール・オーディオスイッチをコンパクトに配置したセンタークラスター部を構成し、遠視点 メーターやマルチディスプレーの視認性・スイッチ類の操作性を両立させるスタイルを創り上げた。 特に、ヒーターコントロールとオーディオ操作部のノブ・スイッチは、丸みを帯びた形状とスモーク メッキ調の表面処理を施すことにより、インストルメントパネル全体の意匠上のアクセントとすると ともに、「操作したくなる」雰囲気を演出させた。
合わせて、新しい「梨地調」の表面処理や、同色相・コントラストトーンの明快な室内配色により、 新鮮な室内空間に仕立ててある。

写真3

X.終わりに
以上のような「デザイン上の工夫」により、革新的なアーゴノミックデザインを織り込んだ「プリウ スデザイン」を完成させ、世の中に商品として出すことが出来た。発売後は、予想以上の方に買って 頂き、その居住性や操作性・視認性に関して大変ご満足を頂いている。この事は、苦労しながらも創 り上げた「アーゴノミックを融合させたプリウスデザイン」が、一応の評価を得たものと自負してい る次第である。今後とも我々デザイナーは、アーゴノミックの専門家と協力しながら、「より人に優 しい斬新なデザイン」を創造したいと考えている。
但し、昨今新聞報道にあるように「運転中の携帯電話操作で人身事故」等の記事を見るにつけ、我々 が努力して視認性や操作性等を向上させても、心無いドライバーの行動で、全ての改良や創造が否定 される風潮が生まれるのでは…との心配が私にはある。
私見ではあるが、これを今後のアーゴノミックデザインの発展に活かすのには、「運転中は運転に集 中させる=意識を活性化させる」研究が必要と思われる。一見すると、これは今までの方向(楽に・ 簡単に)と矛盾するようにも思われるが、人命に関わる根本問題でもある。是非とも、この事に留意 してもらいたい。我々デザイナーも、それらのバランス・ハーモニーをめざした「クルマ作り」にデ ザイナーの視点から提言していきたく考えている。

1998-1999年活動成果
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