●2011年12月11日開催 関東支部大会・関西支部大会企画セッション
 「これからのアーゴデザインを考える」


日本人間工学会関東・関西支部大会を中継で結ぶアーゴデザイン企画セッション報告
「これからのアーゴデザインを考える−人間の成長、環境の変化、技術の革新、参加型のデザイン−」



報告書構成
 A.企画セッション プログラム
 B.各発表の概要
 C.パネルディスカッション「これからのアーゴデザインを考える」
 D.支部大会間中継を伴う企画セッションの可能性
 (文責/A〜C: 高橋 靖、D:新家 敦・上田 義弘)


A.企画セッション プログラム
関東支部大会・関西支部大会企画セッション「これからのアーゴデザインを考える」概要図
■日時
 2011年12月11日(日)13:00〜15:00

■場所
 関東支部大会:芝浦工業大学
 関西支部大会:神戸大学

■座長
 橋 靖(元千葉工業大学)

■趣旨
 アーゴデザイン部会は次期テーマ探索の過程で、新しいステージのHCD(ヒューマンセンタードデザイン)を研究する必要を強く感じるようになりました。すなわち、個としての人間だけでなくコミュニティや環境、技術といった軸に時系列を加えてどう捉えたらいいか、しかもそのデザインプロセスにユーザが参加する手法をどう取り入れていったらよいか、という問題意識です。
 これに対して本セッションは、人間の成長、環境の変化、技術の革新、参加型のデザインの4つのキーワードを掘り下げます。

■演題 
1)人間の成長とユーザエクスペリエンス
  安藤昌也(千葉工業大学工学部)/関東支部

2)環境の変化とこれからのアーゴデザインの課題
  八木佳子(株式会社イトーキ)/関西支部

3)アーゴデザイン指標の一考察−インタラクションからロードマップまで−
  新家敦(株式会社島津ビジネスシステムズ)/関西支部

4)ユーザ参加のデザインと人間中心設計
  西内信之(首都大学東京 システムデザイン学部)/関東支部

■パネルディスカッション
 (司会)橋靖

■企画者
 上田義弘、新家敦、高橋靖、山崎和彦、郷健太郎、吉井誠、八木佳子、安藤昌也、西内信之


B.各発表の概要
1)人間の成長とユーザエクスペリエンス
 安藤昌也(千葉工業大学工学部)/関東支部

 概要:ヒューマンセンタードデザイン(HCD)の目的は、今やユーザビリティからUX(ユーザ体験)へと変わりつつある。安藤の長期的ユーザビリティの研究によれば、人がモノを長く使用する間に一時的UXからエピソード的UX、累積的UXと進み、利用と評価・製品理解を繰り返すことを通して生活におけるモノの意味を確立させていることが明らかとなった(図1)。UXは生活における意味の向上、いわばモノを使い生活を向上させる智恵のプロセスとして積極的に捉えることができる。さらにこうした個人の成長過程を社会状況の中に組み込むことによって、地域社会の発展に活用したり地球環境の保全やサスティナブルな社会の実現につなげていくことができると期待される。
図1 利用経験によるメンタルモデル精緻化仮説


2)環境の変化とこれからのアーゴデザインの課題
 八木佳子(株式会社イトーキ)/関西支部

 概要:環境の変化に対応したデザインを表す言葉として「環境配慮設計」がある。しかし使い手が正しく「環境配慮生活」をしなければ環境負荷低減は実現しない。従って今後のアーゴデザインの研究課題としては、対象となる人のさまざまな意識のレベルに応じた人間の理解や方法論を研究し、さまざまな意識レベルのトータルで環境負荷を低減できる解を提案していくことである(図2)。アーゴデザイン部会が2011年3月に行った合宿研究会では、サスティナブル(環境)、クラウド(技術)、BOP(人間)の講演に続いて4つのグループに分かれたワークショップを行った。その提案のアプローチをみると、「人の意識を変える社会システムをデザインする"微小行為の見える化"」というボトムアップ型提案から「社会全体が望ましいと考える状態に合致するようなものを優先的に提案するための方法論であるSCD(ソーシャルセンタードデザイン)」というトップダウン型提案まで幅広くあったことは示唆に富む。
図2 意識のレベルと望ましい状態


3)アーゴデザイン指標の一考察−インタラクションからロードマップまで−
 新家敦(株式会社島津ビジネスシステムズ)/関西支部

 概要:製品開発における改善指標としてPlan-Do-Check-Actionが連関するPDCAサイクルがよく使用される。アーゴデザイン研究はハード・アーゴデザインの時代からソフト・アーゴデザインの時代、アーゴデザインfor ALL時代、そしてアーゴデザイン方法論、ロードマップの検討と進むうちにユーザの操作とそのフィードバックのインターバルが長くなってきているが、インターバルを考慮したPDCAサイクルにおけるDoからCheckへのインターバル「Tdc」(図3)をできるだけ短縮することによってユーザの行動を絞り込むことができ、人に優しい製品・サービスを実現できるのではなかろうか。「Tdc」の計測がユーザビリティを評価する共通指標となることを提案する。
図3 インターバルを考慮したPDCAサイクル


4)ユーザ参加のデザインと人間中心設計
 西内信之(首都大学東京 システムデザイン学部)/関東支部

 概要:参加型デザインは1960年代の北欧から始まるが、HCDが扱うべき課題がより広く(環境軸)深く(人間軸)難しく(技術軸)なってきている現在、地域社会やユーザを巻き込んだ参加型デザインが改めて重要になってきている。ユーザ参加型デザインはLinux型、アイデア提案型、カスタマイズ型、建築・地域計画型の4タイプに分類できる。この具体例から参加型デザインの考慮すべきポイントを5W1Hの観点から分析(図4)したところ、@支援システムのありかた、A開発者⇔ユーザ間の決定権の所在、B参加ユーザのモチベーションの内容、Cデザイン対象の性格などをわきまえた方法論が必要であることが明らかとなった。
図4 参加型デザインのポイントを5W1Hの観点から分析



C.パネルディスカッション「これからのアーゴデザインを考える」
(堀野(神奈川大学))4先生方の意欲的な発表有難うございました。安藤先生のご発表の「個人レベルの成長から社会レベルの成長へ」のスライドで個人から社会への縦方向の矢印と一時的体験から蓄積的体験への横方向の動きを強調されていました(図5)。これは自主的なものでしょうか、それともそれを促進する要因があるのでしょうか?
図5 「個人レベルの成長」から「社会レベルの成長」へ


(安藤)私もこの動きが大切だと考えていまして、個人の意欲・学びを社会参画に結び付けることは丁度八木さんの発表にありました一人ひとりのミクロな活動が全体と結び付く「微小行為の見える化」をイメージしていました。その一例が先に示したグーグル・パーソンファインダーとか節電ポスターです。ここではプラットホームができていて、ちょっとした意欲が促進される仕組みが生まれている。こういったことがテーマごとに必要になってくると思います。

(堀野)私が人類働態学会と日本生理人類学会で発表した「長寿社会の交通安全」の例を申し上げますと、バスの車内事故削減には技術的解決だけでなく、バス業界の人々が日常的にこれならできるというような改善提案をして「スローライフ」のソーシャルキャンペーンをした結果、目覚ましい事故削減を達成しました。例えば「バスが止まるまで席を離れないでください」という運転手の車内アナウンスを徹底したこともその一つです。ここに至るにはGIAP(政府・産業界・学会・人々)の異なるセクターが一つの場に集うことが促進要因になったと考えています。

(八木)個人と社会、ユーザと作り手、そして先程のGIAPなどいろいろな切り口を考える際に、協業の仕方が大きい。大きなニーズを単なる多数決でない方法でどう捉えるか、顔を突き合わせてのリアルタイムコミュニケーションや統計分析的アプローチもある中で、共通ニーズを捉える方法が今後重要な課題になると考えています。

(西内)コミュニティの中の情報を吸い上げる場面では、まさに参加型デザインの手法が可能でしょう。参加型デザインを人間中心設計にシフトすることを考えた場合に、人間中心設計のプロセスの1番目と2番目、つまりユーザ調査からペルソナを作る段階では、アイデア提案型の参加型デザインがフィットすると思われます。後半の3番目と4番目、つまりプロトタイプを作って評価する段階では、カスタマイズ型の参加型デザインでユーザにプロトタイプを作ってもらうことが有効と思われます(図6)。
図6 これまでの参加型デザインの分類


(司会)ネットワーク時代にどのような参加型デザインの可能性があるのかを今後部会で掘り下げていく必要があろうかと思います。技術の面から新家さん、何かご意見ありませんか。

(新家)今回私は開発より評価に重点をおいてみました。これまでのアーゴデザイン部会の研究は製品を作ってこう使ったという研究にはなっていますが、PDCAのサイクルとしてユーザのアクションを次の設計にどう活かすかの手法がまだ確立していない。そういった観点で、評価に着目したアーゴデザイン部会の研究をしてみたいと考えています。

(梶井(近畿大学建築学部))建物の良否はそれを死ぬまで使って初めて評価が出るものがあります。神経痛がでたり病気になって死んだというように、PDCAのCAまできて初めて評価がでる。ブラックボックス化している設計をユーザに公開して、ユーザが工夫すると何とかできるよということでレベルをアップするようなデザインがあったらいいなと思います。

(岡田(大阪市立大学))今回の関東関西中継の同時シンポジウムの試みはすごく良かったし、成果をあげたと言えます。こういう場をデザインすることが正にアーゴデザインの課題かなと思います。
安藤先生のお話でISO13407がISO9241に再編される時にUXの考えが入ってきたという点が興味深く感じましたが、その背景は?

(安藤)UXというキーワード提案はかなり早い段階からなされていました。インターネットのサービスも人間中心設計の扱うインタラクティブシステムの対象になってきたという背景があって、単に効率的な使い方だけでなく、ユーザ側の体験の方が多様で豊かになっているという認識がありました。単に効率だけでなくユーザの主観的な価値観を考慮する必要があるだろうということがISOの委員の共通認識になってきたと思います。私も委員としてそれを実感しました。

(上田)今日のディスカッション全般を通して、考えなければならない要素がどんどん膨らんでいく中で、将来に向けたイノベーションのある提案をいかに早く効率よくデザイナーとして作っていくか、そして、そのための仕組みが必要なのではないか、と感じました。その仕組みとして本日発表の参加型デザインも活用できるでしょうし、新家さんは評価を短期間で廻すための仕組みとして時間の測り方を提案されていたと思います。総合すれば、これからアーゴデザイン(HCD)を考えたり提案をする時に、設計と評価を高速に実施する、もっと極論すれば同時にやるような方法論や仕組みが求められていると言えます。ソフトの世界ではアジャイル開発という手法で、コンパクトにソフトウエアの開発を評価をしながら廻していく仕組みを作っていますが、人間中心設計の世界でももっと高速に評価と設計を廻していく仕組みが必要だと思いました。

(司会)総括を有難うございました。我々アーゴデザイン部会はそうした技術検討と合わせて、安藤先生が指摘された経験の意味が深まり人の知恵が蓄積されるといった人間の成長と社会化のプロセスもしっかり押さえた研究を進めていきたいものです。


D.支部大会間中継を伴う企画セッションの可能性

 執筆者 新家 敦(株式会社島津ビジネスシステムズ)、上田 義弘 (富士通デザイン株式会社)

  報告書[PDF:30キロバイト]


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